「墨壺（すみつぼ）」の美と機能
大工の仕事で欠かせない道具のひとつが「墨壺（すみつぼ）」です。
これは木材にまっすぐな線を引くための道具で、現代のチョークラインのような役割を果たします。
墨壺の中には墨汁が入っており、そこに巻き取られた糸を通すことで、木材にピンと張った糸を「弾く」ことで墨線が引けます。これを「墨を打つ」と言い、まさに大工の技のはじまりを告げる瞬間でもあります。
墨壺は昔から職人たちによって手作りされてきました。
特に江戸時代のものは、木材を美しく彫刻し、漆を塗ったものや装飾が施された芸術品のような墨壺も多数存在しました。
道具でありながら、持ち主の美意識や職人としての誇りが反映される、
そんな存在だったのです。
現代ではプラスチック製の市販品も主流になりつつありますが、墨壺の「形」「重み」「引き心地」にこだわる職人さんも多く、今なお木製の手作り墨壺を愛用している方もいます。
墨壺には、線を引くというシンプルな機能の中に、職人の感性・技術・誇りが凝縮されています。
道具にこそ、職人の魂が宿る、そんな日本の大工文化の一端を、次世代にも伝えていきたいですね。
